016夕焼け

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夕焼けに浮かぶ茜色の雲には、憂愁が秘められている。

この道を歩くのがあと数回もないと思うと、目の奥が熱くなってくる。隣に玲香が居るのに、ここで泣いてしまったらきっとおかしな雰囲気になってしまう。涙を溢しても、玲香はきっと「何泣いてるの」って呆れたように笑ってくれるだろう。けれど、それはとても勿体ないと思うから。

泣きそうなのをぐっと堪えて口角を上げる。上手く笑えている自信はない。変な顔になっていないようにと祈った。

「変な顔」

秒でバレた。

思わずぎくりと肩を震わせる。隣を歩いているのだから、正面からは顔を見られていない筈。なのに、どうして玲香にはわかってしまうのだろう。
隣で玲香が立ち止まった気配がして、振り返った。

玲香の短い黒髪がさら、と風に揺れる。残照を浴びて朱が混じる黒が、とても美しいと思った。

初めて玲香と出会った時も、彼女の美しさに惹かれた。凜としていて、揺るがない強さを秘めているような。それでいて、何故か儚くも見える矛盾。綺麗だと、その美しさに触れたいと思ったのだ。

「どうせ、『もう少しで卒業か』って感傷に浸ってたんだろうけど」

玲香はにやりと笑った。最初はこんな表情を見せてくれなかったな、と過去に思いを馳せてまた泣きそうになる。

「終わらせないから、大丈夫だよ」

玲香が続けた言葉に驚いて、彼女をじっと見つめた。玲香の目を細めて優しく微笑んでくれている。

「それとも僕の友だちやめたい?」
「や、やめない!」

首を傾げる玲香に慌てて言った。それから、ふと思い出す。出会った当初、玲香は「友だちになってください」と言った茜に対して「友だちはなろうと言ってなるものなのか」と聞いた。

「……友だちって、やめるって言ってやめるものなの?」

ちょっとした悪戯心で聞くと、玲香はきょとんと目を丸くした。それから、ははっと声を出して笑う。珍しく快活に笑う姿を目の当たりにして、茜は胸を高鳴らせた。

「覚えてたのか。それ、仕返し?」
「そ、そんな大層なものじゃないけど。ちょっと思いついて」
「そっか」

玲香が再び歩き始める。茜もまた、玲香の隣に並んで歩いた。

「大事なことはこうして覚えてるんだから、卒業しても変わらないよ。ただ少し、景色が違うだけだ」

じんわりと、胸の辺りが温かくなっていく。

「だから、大丈夫だよ」

幼い子どもに言い聞かせるような、優しくて柔らかな声だ。

変わってしまうことは少し怖い。けれど、この先も大切な友人と変わらず繋がっていられるのなら、この感情も愛おしく思える気がした。

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