007手を繋いで

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右手にぬくもりを感じるのが当たり前になったのは、いつからだったか。
それはもう遠い昔からだったような気もするし、ここ最近だったような気もする。

玲香に寄り添うその人は、いつも優しく微笑み、そっと手を握って、いつも玲香を導いてくれる。
水の中を揺蕩っているような、このまま眠ってしまいそうな安心感と、ほんの少し、心臓の裏側を撫でる不安感。

このまま身を任せてしまえば、幸福を感じながら空の向こうまで昇っていけるだろうか。

 

 

「そういう夢を見た」

玲香は出された緑茶をずず、と啜る。茶を出した人物――隠世に居を構える陰陽師・鬼一は顔を顰めた。

「……それを聞かされた俺はどうすればいい」
「特に何もしなくて良いけど」

玲香はしれっと言った。

「お前、俺をおちょくっているのか? それとも試しているのか?」
「どちらでもないかな」

ちょこんと首を傾げて言う玲香に、鬼一は大きく溜息を吐いた。それから眉間の皺を指で揉む。

「俺がお前の手を取ればその夢での相手になれんの?」
「え、それは嫌かな」
「お前まじでふざけんなよ」
「鬼一は現代語を違和感なく使うよね」
「現代語ってほどか?」
「とりあえず、千年前が全盛期だった人だとは思えないかな」

鬼一は隠世で生きている陰陽師だ。彼が力の強い陰陽師であることも関係していると思うが、隠世に身を置いた人間は不老らしい。と言っても、隠世で生活する人間なんて、鬼一くらいしか居ないのだが。

時折現世にも姿を見せる鬼一は現代の知識も豊富だ。そのために、玲香は鬼一と話す時に生まれた時代の差を感じない。

幼い頃に隠世に迷い込んだ玲香を鬼一が助けてから、玲香は自分で対処しきれない怪異と出会った時は鬼一を頼るようになった。勿論、氷織や藤といった妖怪たちに助けを求められないと判断した時ではあるが。

鬼一は変な人間だと、玲香は思う。最早人間と言っていいのかはわからないが、気まぐれで、飄々としていて、悪霊や妖怪退治が仕事の癖に、氷織たちと仲が良い。曰く、「害のない妖怪を退治するなんて馬鹿のやることだ」らしい。

「俺はいつでもお前を迎える準備は出来てるけど」
「で?」
「冷たい奴だな」
「はいはい」

そして、鬼一はよく玲香を口説く。出会いを果たしてから、玲香のことを「面白い人間」だと言って好意的に(本当に好意だったかは不明だ)接してくれたが、玲香が中学生になった辺りから、何となく言葉の温度が違う。だから、玲香は鬼一のことを密かに「ロリコン」と称している。

けれども、と玲香は考える。もしも夢の相手が鬼一だとして、鬼一と手を繋ぐことも、鬼一が玲香をいつも導いてくれると感じることも、可笑しいことだとは思えなかった。

ひとまず、手を繋ぐくらいなら、許してもいいかもしれない。

玲香はむすっとしながら茶を啜る鬼一を見つめ、絶対に言ってはやらないけど、と笑みを浮かべた。

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