005綺麗なもの

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ふと、光が反射して瞳がきらりと輝いた。玲香の夜の海のような青藍の瞳は、まるで宝石のようでもあって、気を抜くと吸い込まれてしまいそうな気分になる。

「綺麗だね」
「……?」

思ったまま言葉にすると、机を挟んで向かい側に座る玲香が茜を見て不思議そうに首を傾げた。それから目を伏せる。

玲香の会話のテンポは基本的に速いけれど、自分に理解できないことがあると、こうして相手の言葉を反芻するためにその他の情報をシャットアウトしようとする癖がある。それでもわからない時は相手をじっと観察するか、どうでもいいと思ったら諦める。

玲香がこちらの意図を咀嚼している間の沈黙には、最初は戸惑いや緊張、不安を感じていたけれど、沈黙の意味を理解した今では心地良いと思う。わからなければ聞いてくれれば答えるのに、と思わなくはないけれど。でも、折角茜のことを考えてくれているのに、その時間を邪魔するのは勿体ない気がするのだ。

「茜の方が綺麗だと思う」

はい来ました直球ど真ん中ストレート。

茜はガンッと机に額を打ち付けた。玲香がうわ、と小さく溢したのが聞こえた。引かないでください、あなたのせいなんだから。

玲香の言葉には嘘がないから、まっすぐに心に響いてくるのだ。こちらは防御する術なんてなくて、唯々身体を浸食してくる熱をどうにか処理するために耐えるしかない。

「そういうの止めて……いや、今のなし……止めないで。嬉しいです」
「どっちだよ」

玲香は綺麗だ。姿形が美しいとか、そういう単純な話ではなくて、とにかく綺麗な存在だと、茜は思っている。そしてそれは、いつか少女漫画とかアニメで見たような『心が綺麗で穢れのない純真無垢なヒロイン』とはまったく異なる。

どう言い表せば良いのだろうか。茜はいつも玲香に当てる言葉を見つけられない。
けれど、綺麗だからこそ。玲香は妖怪や幽霊をも引き寄せてしまうのだろう。そして、茜や渚といった心臓の裏側辺りに昏いものを潜ませている人間たちも。

茜は身体を起こし、怪訝そうな顔をしている玲香と目を合わせて笑った。

「私は玲香の方が綺麗だと思います」
「何で敬語」

玲香は左手で頬杖をついて窓の向こうの景色を見る。きらきらと光を返す夜の海は、美しい。
ちらりと、玲香の目が茜を向く。けれどすぐに目を伏せ少しの間泳がせてから、照れくさそうに口を開いた。

「……ありがとう」

何それ可愛い。

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