004白い花

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同い年くらいの少女が、玲香の眼前に白くふわふわとした花の束を差し出している。

少女は半袖のセーラー服を着ていて、玲香とは違う高校に通っている生徒だということがわかった。どこの高校の制服かはわからないが、ひとまず、知り合いでないことは確かだ。

「これ、お母さんに渡してほしい」

少女が真剣な面持ちで言った。その顔にはどこか焦燥感が漂っている。突然玲香の前に立ち塞がって、花束を差し出し開口一番そう言うほどに、彼女は切羽詰まっているようだ。

玲香と少女の脇を、道行く人々が時折不思議そうな顔や迷惑そうな顔をちらりと向けては通り過ぎていく。

「自分で渡しなよ」

玲香は少女から目を逸らし、彼女に背を向けて歩き出した。向かっていた場所とは反対方向だけれど、今は彼女から離れることが先決だった。

「待って!」

再び、少女が玲香の前に回り込んで進路を塞いだ。玲香は眉を顰める。少女は申し訳なさそうな顔で、けれども揺るぎない瞳で玲香をまっすぐに見つめた。

「ごめんなさい。でも、私じゃ渡せないから」
「……喧嘩でもしたの」

玲香は溜息混じりに聞いた。少女は泣き笑いを浮かべる。

「そんな感じ」

二人の間に沈黙が流れる。玲香は居心地が悪くなって、少女から視線を外し自身の足元を見つめた。

人々が行き交う道でぽつんと立ち尽くす玲香に、声を掛ける者は居ない。大丈夫かと聞いてほしいわけでもないし、されたとしても、ほんの少しの煩わしさを感じるだろうけれど。それでも、唯々通り過ぎていく人々の姿は、そして放っておかれる人間の姿は、寂しいものだと思う。

玲香は少女に視線を戻す。まじまじと少女の表情を見ると、そこには焦燥感の他にも、悲しさとか、寂しさとか、悔しさとか、色んな感情が入り交じっていることがわかった。

「その花は、どこにあるの」

玲香が尋ねると、少女はぱっと顔を明るくした。救世主を見つけたとでも言わんばかりで、玲香はいたたまれなくなる。

「ありがとう! ……あの、今持っている花は、渡せないの?」

玲香は少女の手元の白い花束に目を向ける。確か、カスミソウ、だったか。どこか花屋に入ればすぐ手に入れられそうだ。

「それは君が作り出したもので、僕は受け取れないよ」

首を振ると、少女はしゅんと肩を落とす。

「やっぱり、そうなんだ。……そうだよね」

こんなことでも、生者と死者の違いをまざまざと見せつけられる。今し方少女が受けた痛みを、玲香は半分でもわかるような気がした。

「カスミソウだけだと、寂しいんじゃない」
「そんなことないよ。私はこの花が好き。もちろん、他の花と束ねれば、もっと華やかになるけれど」

少女は儚げに、何か大切なものを想い出すように、小さく白い花束を顔に寄せて微笑んだ。

「……そうか」

ぐっと胸に込み上がってきた感情を飲み込んで、玲香は絞り出すように言った。

花屋には、青い花はあるだろうか。もし育ての親を想わせる青い花があったなら、少女が好きな白い花とともに束ねてもらうことにしよう。

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