003風の吹く場所

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視える、というのは酷く息苦しい。

氷織たち妖怪が居る家に帰れば、そこは視えることが当たり前の世界だから、安心して息が出来る。だけれど、その世界から一歩離れてしまうと、自分の当たり前は「異常」に変わって、常に気を張っていなければぐさぐさと刃を突き刺してくる。
高校生にもなればやり過ごし方も身について、幼い時ほど警戒せずとも良くなったけれど。それでも。

恨みがましく生者を睨む者。
死んだことに気づかず、当時の様子を再現し続ける者。
迷子のように必死に親を探している子ども。
そして、彼らに気づかず、無表情で、時間に追われ焦りを滲ませた顔で、友人と笑顔で、通り過ぎていく生者。

今でも時々、吐いてしまいそうになる。
息を潜めて、誰にも気づかれないように、静かに生きようと足掻く自分は生きていると言えるのか。数年前にふと頭に浮かんだ疑問の答えは、未だに出ない。

高校に到着し玄関で靴を履き替えていると、右肩をぽん、と軽く叩かれた。そちらを見やると、高校に入ってからの友人である紫藤茜が、大きな目を細めてにっこりと笑った。

「おはよう、玲香」

さらり、と柔らかな風が頬を撫でていく。ふ、と肩の力が抜けたのがわかった。

「……おはよう」

隣で茜が靴を履き替える。玲香はその様子をじっと見つめた。

「今日は一時間目から数学だよね。朝から嫌だなあ」
「どの時間でも嫌って言うだろ」
「度合いが違います」

二人並んで、教室へと歩く。
いつからだったか。
茜の傍に居る時は、氷織たちと一緒に居る時とよく似た風が吹いている。

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