002手

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あ、と思った時には遅かった。
手のひらに出し過ぎてしまったハンドクリーム。絶対に、手全体に広げても、揉み込んでも、絶対にベトベトしてしまう量だ。玲香は溜息を吐いてクリームを塗り広げていく。

「あれ。白波って、ハンドクリーム使うんだ」

いつの間にか玲香の席の傍まで来ていた渚が言った。意外だと思っていることが、言外に滲み出ている。
玲香は両手を擦り合わせながら渚の顔をじっと見つめた。それから良いことを思いついたと渚の左手を取った。

「は」

渚の声が頭上から降ってくる。玲香はそれを気にも止めず、両手で渚の左手をマッサージするように優しく押したり撫でたり。え、あ、と渚が言葉にならない声を上げているが、そのまま続けた。

左手が終わったら次は右手だ。玲香は渚の左手をそっと離して、反対側の手を取ろうとする。
すると、渚はバッと右手を上げて躱した。玲香は不満げに眉を寄せて渚を見上げる。

「右手」
「いやいやいやいや」

玲香の視界に入った渚の顔は赤くなっていた。何かを耐えるような表情で、玲香と目が合うなり、すっと目を逸らす。

「い、意図はわかったけど、ちょっと、それは、無理」

無理、って。

「あ、違う。嫌とかじゃなくて! ただその、恥ずかしいと言うか」
「……何で」
「せ、説明させないでくれ」

どうしても渚は理由を言わないだろうとわかり、玲香はそれ以上聞くことを止めた。それからふと、思ったことを口に出す。

「そういえば、渚の手って、綺麗だね」

渚が固まった。

「……お前本当、そういうとこだぞ」

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