001晴れた日に

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『アルストロメリア』の玲香と氷織のお話。
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「氷織、折角良い天気なのに、外に出ないの?」

山で彷徨っていた所を雪女である氷織に拾われてからまだ間もない頃、とある春の日にそう聞いたことがある。幼い玲香は、氷織が妖怪であり、暑さに弱い雪女であることも、知識としては持っていたものの理解していなかった。だから、氷織が家から出ないことを不思議に思っていた。

「私に外に出ろって?」

氷織は無知な子どもをじろりと睨んだ。

「夏も近くて暑くなって居るというのに、私を殺す気かい?」

脅かすように言う氷織に、玲香は肩をびくりと震わせた。何故そんな話に飛躍するのか、到底理解はできず、けれど氷織が怒っているということは察することが出来た。

「ご、ごめんなさい」

怒らせるつもりはなかった。ただ、今日はとても良い天気で、縁側で足を投げ出して風に吹かれるととても気持ちが良かったから、氷織にも教えてあげようと思っただけだった。

「あの、氷織は、暑いのが苦手なの……?」

恐る恐る、玲香は氷織を窺った。心臓がばくばくと鳴っている。自分を拾ってくれた気まぐれな妖怪は、とても優しい妖怪なのだと思っているけれど、怒るととても怖い。また山の中で置き去りにされたら嫌だな、と胸の前で手をもみ合わせた。

「嫌いだね」

心臓が嫌な音を立てた。自分が嫌いだと言われたような気がして、泣きそうになった。この妖怪に嫌われてしまったら、自分はどうやって生きていけばいいのだろう。

「……あんた」

氷織が呆れたような声で玲香を呼んだ。玲香は目を泳がせた後、そろりと氷織を見遣る。

「まあいいさ。こんくらいの陽気なら何てことないからね」
「え……でも、さっき」
「冗談だ。あんた、妖怪を舐めるんじゃないよ。こんくらいで死ぬわけないだろう。間抜け」

何て言われようだ。玲香はぽかんと口を開けて氷織を見つめた。けれど、どうやら氷織はもう怒っていないようだった。嬉しくなって、顔が綻ぶ。

「風がすごく気持ちいいんだ。縁側で一緒におやつを食べたい」
「やれやれ。我が儘娘の相手は大変だ」ふっと

息を吐き出して、面倒くさそうに、けれども優しい声で、氷織は言ったのだった。

氷織は初めて出会った時から優しかった。
玲香は小さく笑みを溢して、部屋の中で寝転んでいる氷織に声を掛ける。

「ねえ氷織、たまには外でおやつでも食べようよ」
「はあ? あんた、私を殺す気かい?」

玲香に背を向けていた氷織は上半身を捻って玲香に鋭い眼光を向けた。玲香は怯むことなくにこりと笑みを返す。

「どうせ、最後には付き合ってくれるだろ」
「……生意気に育ったもんだ」

それでも、氷織は拒絶しないのだ。

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