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穏やかな熱

「もう冬か」「まだ夏だよ」いや、秋か。と一人呟く男を見て、もう少し面白い返しはないのかと呆れた。真面目すぎる。「0点」「低すぎる」返事をしただけなのに酷い仕打ちだな。男が存外楽しそうに言う。あなたの返しはちっとも面白くないのだけど。目で訴え…

愛し君へ

真っ赤に染まる雲は、燃え盛る炎にでも包まれているようだ。ふ、と息を吐いて横の少年を見る。自分から「朝焼けが見たい」と言ったくせに、呑気に欠伸をしている。呆れながら、朝焼けに視線を戻す。あの雲に触れたら熱そうだな、と思った。そりゃあ、あの綺麗…

小さな世界のお話

梅雨の日だった。しとしと雨が降っていて、休業中のお店の屋根を借りて雨宿りをしていた。小雨なら傘がなくとも帰れはするのだが、その日は何となく、のんびりと雨が止むのを待とうと思った。(……天気予報士はよく嘘を吐く)全てはデータではないということ…

人と同じものを見よ

「無理でしょ」当たり前だといったトーンで、少女は言い捨てた。一蹴された少年は呆気に取られてから、ふっと息を吐いた。苦笑を浮かべる。「冷たいな」「そう?でも、無理なものは無理だわ」「人は同じものを見られるか?」というのが、本日の二人のお題だっ…

ともだち

人の死とは、あまりにも呆気ない。昨日まであの子がイスに座って教科書やノートを広げていた机の上には、白い花を生けた花瓶が置かれていた。教室内は、誰かが鼻を啜る音や嗚咽で溢れている。わたしはただその光景を見せられ、第三者の音で耳を侵され、それで…