文章

主人公様①

気づいた時には、型に嵌まって生きていた。疑問に思うこともなく、そうであることが当然というように。毎日決まった場所で、決まった行動をして、決まった言葉を吐き出していた。その自覚をしたのは、ごく最近のことだ。別に、何か大きなきっかけがあったわけ…

わたしたちは主人公様のために生きている。

わたしたちは同じ行動・同じセリフを毎日繰り返している。時間は動いているようで動いていない。それに気づいたのはいつからだったか。ある日、毎日異なる行動をしている少年と出会う。彼を見ていて気づいたんだ。わたしたちは、彼のためにそこに在るだけなの…

アルストロメリア赤穂渚編ー4

保健室のベッドに渚を寝かせた後、玲香はベッドを遮るカーテンの前の椅子に座り、脳内反省会を繰り広げていた。言うまでもなく、玲香に授業へ戻る気はない。正直、あれはないだろう。玲香は頭を抱えた。いくら渚を可哀想に思ったとは言え、あの場で渚を連れ出…

017昼間の森

行きたいところがある、と言った玲香に「俺も行きたい」と渚が申し出たのは数十分前のこと。玲香が何処に行きたいかわからないまま徒歩で移動。途中でコンビニに立ち寄って、玲香はいくつかのお菓子を買った。それからまた暫く歩くと、住宅街の喧噪とはほど遠…

アルストロメリア赤穂渚編-3

七月。玲香が通う高校はあと二週間で夏休みを迎える。「もう少しで夏休みですね」玲香の前の席に高校一年生からの友人である少女――紫藤茜が座り、にっこりと笑った。茜の焦げ茶色で肩まで伸びた髪がふわりと揺れる。「夏祭りも行きたいし、海にも行きたいな…

016夕焼け

夕焼けに浮かぶ茜色の雲には、憂愁が秘められている。この道を歩くのがあと数回もないと思うと、目の奥が熱くなってくる。隣に玲香が居るのに、ここで泣いてしまったらきっとおかしな雰囲気になってしまう。涙を溢しても、玲香はきっと「何泣いてるの」って呆…

015風に吹かれて

縁側にごろりと寝転んで、顔のすぐ前までやってきた猫又のねーさんを撫でてやる。ねーさんは気持ちよさそうに喉をごろごろと鳴らして、甘えるように撫でている手にすり寄った。そよそよと優しい風が全身を包む。水の中を漂っているような心地よさに眠くなって…

014手紙

カフェのポストから取り出したチラシやはがきの中に、封蝋で閉じている真っ白な封筒を見つけた。誰から届いた手紙かすぐに察して笑みが溢れる。意外に洒落たのが好きなんだよなあ。そんなことを言うとむっとして拗ねてしまうので直接言うことはないが、差出人…

アルストロメリア赤穂渚編-2

目が覚めると同時に、玲香は体にまとわりつく不快感に顔を顰めた。障子を通って入ってくる太陽の光が顔に当たっている。七月に入ってからと言うもの、日本はとかく蒸し暑い。陽が昇るのも早くなって、暑さで目が覚めることもしばしば。氷織は今日もまた不機嫌…

013心音

ふと、酷く冷えた何かが額に触れた。まだ残る眠気を感じながら目を開く。ぼんやりとした見えた誰かの手が視界から外れて、手が引っ込められた方に顔を動かすと、氷織が難しそうな表情をしていた。氷織は布団の横で正座をしている。どうしてここに居るんだろう…

012安らぐ場所

大切な弟を失って、それでも自分は息をしているという息苦しさに絶望した。自分が死ねば良かったんだと何度も思った。いっそ、死んでしまおうか、とも。けれど、子どもに先立たれてしまった両親がさらなる絶望に襲われると思うと、それにもまた酷く苦しくなっ…

アルストロメリア赤穂渚編―登場人物

白波玲香(しらなみれいか)……幼い頃に雪女・氷織に拾われ育てられた少女。霊感があり幽霊との意思疎通が可能。紫藤茜(しどうあかね)……高校一年生の時に玲香の友人となった少女。玲香の良き理解者で自称ファン第一号。赤穂渚(あかほなぎさ)……玲香と…