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アルストロメリア赤穂渚編ー12

眠い。玲香は欠伸をかみ殺す。しかし、睡魔への抵抗むなしく、呆気なく机に突っ伏した。宣言通り、朝六時辺りまで渚と喋り通していたため、深夜に起きた後はまったく眠っていない。食卓では勘の良い氷織が物言いたげにこちらを見てきていたが、何とか誤魔化し…

アルストロメリア赤穂渚編ー11

そろり。気配を殺し、慎重に廊下を歩く。家の中はすっかり闇に飲み込まれており、何処に何があるか薄らわかる程度にしか見えない。物にぶつかって音を立ててしまわぬよう壁伝いに進んでいくと、ぼんやりとしたオレンジ色の灯が漏れ出ている部屋を見つけた。逸…

アルストロメリア赤穂渚編ー10

雨が地面を叩く音は、降り始めた時より強くなっている。そこそこ時間も遅いので、当然だが外も薄暗い。今は本格的に夏に入る前の時期で、段々と日は長くなってきているものの、太陽が雲で覆われてしまえば当然だった。玲香は窓の外に向けていた頭を渚の方へ戻…

アルストロメリア赤穂渚編ー9

茜に事情を話してから数日経った。夏休みを目前に控えているというのに、未だに潮音と話すことは出来ていない。一ヶ月程度ある夏休みに入る前に、渚の状況を把握して、何かしらの対策を打ちたいところではあるのだが、どうにかできないだろうか。玲香は自身を…

アルストロメリア赤穂渚編ー8

「そ、そういえば、赤穂くんの弟さんは玲香に何を頼んだの? 玲香の話を聞いて、赤穂くんに良くないことが起こってるっていうのは、何となくわかってるけど」玲香は逡巡した。『弟に頼まれた』とは言ったものの、実のところ頼まれたわけではなく、潮音の様子…

アルストロメリア赤穂渚編ー7

翌日の放課後。玲香と茜は高校から5分程度離れた場所にあるファミレスへと立ち寄った。四人掛けの席に案内され、店員から渡されたメニューを眺めながら茜が口を開く。「今日、昨日より元気そうだったね」誰が、とは言わないが、それが渚のことであるのは明白…

アルストロメリア赤穂渚編ー6

鞄の中からスマホを取り出し画面を確認すると、『紫藤茜』の文字が表示されている。渚を保健室に連れ出した件だろうか。画面をスライドさせてスマホを耳元に近づけた。「もしもし」「あ、玲香。今大丈夫?」「うん」電話越しの茜の声は普段よりも些か高く聞こ…

アルストロメリア赤穂渚編ー5

「また何か変なことに首を突っ込んでんじゃないだろうね」玄関の戸を開けた玲香に、おかえりの一言もなく開口一番に氷織は言った。玲香は一瞬固まり、それからふっと息を吐き出して首を横に振った。「違うよ。春頃に事故に遭って休んでたクラスメイトが、今日…

主人公様①

気づいた時には、型に嵌まって生きていた。疑問に思うこともなく、そうであることが当然というように。毎日決まった場所で、決まった行動をして、決まった言葉を吐き出していた。その自覚をしたのは、ごく最近のことだ。別に、何か大きなきっかけがあったわけ…

わたしたちは主人公様のために生きている。

わたしたちは同じ行動・同じセリフを毎日繰り返している。時間は動いているようで動いていない。それに気づいたのはいつからだったか。ある日、毎日異なる行動をしている少年と出会う。彼を見ていて気づいたんだ。わたしたちは、彼のためにそこに在るだけなの…

アルストロメリア赤穂渚編ー4

保健室のベッドに渚を寝かせた後、玲香はベッドを遮るカーテンの前の椅子に座り、脳内反省会を繰り広げていた。言うまでもなく、玲香に授業へ戻る気はない。正直、あれはないだろう。玲香は頭を抱えた。いくら渚を可哀想に思ったとは言え、あの場で渚を連れ出…

017昼間の森

行きたいところがある、と言った玲香に「俺も行きたい」と渚が申し出たのは数十分前のこと。玲香が何処に行きたいかわからないまま徒歩で移動。途中でコンビニに立ち寄って、玲香はいくつかのお菓子を買った。それからまた暫く歩くと、住宅街の喧噪とはほど遠…