アルストロメリア

アルストロメリア赤穂渚編ー8

「そ、そういえば、赤穂くんの弟さんは玲香に何を頼んだの? 玲香の話を聞いて、赤穂くんに良くないことが起こってるっていうのは、何となくわかってるけど」玲香は逡巡した。『弟に頼まれた』とは言ったものの、実のところ頼まれたわけではなく、潮音の様子…

アルストロメリア赤穂渚編ー7

翌日の放課後。玲香と茜は高校から5分程度離れた場所にあるファミレスへと立ち寄った。四人掛けの席に案内され、店員から渡されたメニューを眺めながら茜が口を開く。「今日、昨日より元気そうだったね」誰が、とは言わないが、それが渚のことであるのは明白…

アルストロメリア赤穂渚編ー6

鞄の中からスマホを取り出し画面を確認すると、『紫藤茜』の文字が表示されている。渚を保健室に連れ出した件だろうか。画面をスライドさせてスマホを耳元に近づけた。「もしもし」「あ、玲香。今大丈夫?」「うん」電話越しの茜の声は普段よりも些か高く聞こ…

アルストロメリア赤穂渚編ー5

「また何か変なことに首を突っ込んでんじゃないだろうね」玄関の戸を開けた玲香に、おかえりの一言もなく開口一番に氷織は言った。玲香は一瞬固まり、それからふっと息を吐き出して首を横に振った。「違うよ。春頃に事故に遭って休んでたクラスメイトが、今日…

アルストロメリア赤穂渚編ー4

保健室のベッドに渚を寝かせた後、玲香はベッドを遮るカーテンの前の椅子に座り、脳内反省会を繰り広げていた。言うまでもなく、玲香に授業へ戻る気はない。正直、あれはないだろう。玲香は頭を抱えた。いくら渚を可哀想に思ったとは言え、あの場で渚を連れ出…

017昼間の森

行きたいところがある、と言った玲香に「俺も行きたい」と渚が申し出たのは数十分前のこと。玲香が何処に行きたいかわからないまま徒歩で移動。途中でコンビニに立ち寄って、玲香はいくつかのお菓子を買った。それからまた暫く歩くと、住宅街の喧噪とはほど遠…

アルストロメリア赤穂渚編-3

七月。玲香が通う高校はあと二週間で夏休みを迎える。「もう少しで夏休みですね」玲香の前の席に高校一年生からの友人である少女――紫藤茜が座り、にっこりと笑った。茜の焦げ茶色で肩まで伸びた髪がふわりと揺れる。「夏祭りも行きたいし、海にも行きたいな…

016夕焼け

夕焼けに浮かぶ茜色の雲には、憂愁が秘められている。この道を歩くのがあと数回もないと思うと、目の奥が熱くなってくる。隣に玲香が居るのに、ここで泣いてしまったらきっとおかしな雰囲気になってしまう。涙を溢しても、玲香はきっと「何泣いてるの」って呆…

015風に吹かれて

縁側にごろりと寝転んで、顔のすぐ前までやってきた猫又のねーさんを撫でてやる。ねーさんは気持ちよさそうに喉をごろごろと鳴らして、甘えるように撫でている手にすり寄った。そよそよと優しい風が全身を包む。水の中を漂っているような心地よさに眠くなって…

014手紙

カフェのポストから取り出したチラシやはがきの中に、封蝋で閉じている真っ白な封筒を見つけた。誰から届いた手紙かすぐに察して笑みが溢れる。意外に洒落たのが好きなんだよなあ。そんなことを言うとむっとして拗ねてしまうので直接言うことはないが、差出人…

アルストロメリア赤穂渚編-2

目が覚めると同時に、玲香は体にまとわりつく不快感に顔を顰めた。障子を通って入ってくる太陽の光が顔に当たっている。七月に入ってからと言うもの、日本はとかく蒸し暑い。陽が昇るのも早くなって、暑さで目が覚めることもしばしば。氷織は今日もまた不機嫌…

013心音

ふと、酷く冷えた何かが額に触れた。まだ残る眠気を感じながら目を開く。ぼんやりとした見えた誰かの手が視界から外れて、手が引っ込められた方に顔を動かすと、氷織が難しそうな表情をしていた。氷織は布団の横で正座をしている。どうしてここに居るんだろう…